
金崙 · パイワン族(排灣族)の集落温泉 · 南廻のひとつの物語
温泉旅館ではなく、集落の浴室
70℃の弱アルカリ性炭酸水素ナトリウム泉、ほのかに硫黄の香る湯、どの家にも自分の湯小屋がある —— 金崙は台東でいちばん観光に飲み込まれていない温泉の町。
部落編輯室·更新 2026-05-31 · 5分で読めます
台東の市街から台9線の南廻を南へ走り、太麻里を過ぎ、多良駅を過ぎると、50分で金崙に着く。
金崙は小さな町だ。大きなホテルの看板もなく、観光バスもなく、駅のそばには麺屋が数軒あるだけ。
けれど、路地のなかで温泉の匂いがしてくる。
この路地に入り、あの路地を抜けると ── どの家にも、自分の湯小屋がある。
Kanaron ── パイワン族はここを「虷仔崙(カナロン)」と呼ぶ
金崙はパイワン族(排灣族)の言葉で「Kanaron」といい、音を写して「虷仔崙」と書く。「虷仔」はパイワン族がある種の渓流のエビを呼ぶ言葉、「崙」は地名によく使われる字 ── つまり「渓のエビがいる場所」という意味だ。
その渓こそが金崙渓。中央山脈の奥深くから流れ出し、火成岩や変成岩の上を転がりながら、鉱物を水に溶かし込んでいく。河口からおよそ5キロのあたりで、河床の割れ目から湧き出す ── これが金崙温泉の源だ。
パイワン族の祖先は、この渓の水が湯あみに使えることをずっと前から知っていた。日本統治時代には、日本人もここを調査し、湯小屋を開いた。戦後、温泉の所有権は集落の人々の手に戻された ── これが、金崙の湯小屋が知本のようにチェーンホテルに独占されていない理由でもある。
金崙はパイワン族の家々の浴室で、そのかたわらに、あなたも湯に浸かれる場所がある。
一杯の湯へのこだわり
金崙温泉の基本データ:
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 泉質 | 弱アルカリ性炭酸水素ナトリウム泉(通称「美人の湯」) |
| 色 | 澄んで透明 |
| 香り | ほのかな硫黄の匂い(知本よりはっきりしている) |
| 湯温 | 摂氏70〜99℃(高温。水で温度を調節する必要がある) |
| pH | 約7.5〜8.5 |
| 特徴 | なめらかな肌触り、鉱物が豊富、筋肉のこわばりをほぐすのに適している |
知本(無色無臭)との最大の違いは ── 金崙にはかすかな硫黄の香りがあり、「温泉が本物だと感じられる」こと。
4つの湯あみ
金崙の湯小屋は、おおよそ4種類に分かれる。
1. 集落が営むプライベート湯小屋
もっとも「金崙らしい」選択肢。木造で、素朴で、豪華ではないけれど、湯質は純粋で、値段も手ごろ。NT$ 300〜500/時間。
2. 集落の民宿の客室内の湯
集落の民宿に一泊すれば、部屋のなかに自分だけの湯池がある。朝も夜も浸かれて、時間に追われず、パイワン族のおばさんの家庭料理を添えれば、いちばん満ち足りた体験になる。NT$ 2,500〜5,000/泊。
3. 山と海を望む湯小屋
**「東太陽SPA温泉会館」**は少し高台にあり、湯池から太平洋と金崙渓を遠くに望める。日の出も夕暮れも、それぞれに趣がある。
4. 野渓温泉
金崙渓の上流には、自然に湧き出る野渓温泉がいくつかある。たどり着くには少し歩く必要がある。設備もなく、柵もなく、安全は自己責任。台風のあとは地形が変わりやすいので、地元の人に案内してもらうのがいちばん安全だ。

地元からの提案:はじめて金崙に来るなら、まず集落の民宿に一泊を。 翌朝、まず湯小屋で1時間浸かり、金崙の海辺を歩いて日の出を眺め、民宿に戻ってパイワン族のお母さんがつくる朝ごはんを食べる ── これが金崙のいちばん正しい楽しみ方だ。
温泉だけじゃない
金崙には、湯のほかに、海がある。
- 金崙の海辺:湯小屋から歩いて5分で太平洋へ。人混みもなく、店もなく、ただ手つかずの海岸線が一本あるだけ
- 金崙大橋:橋の上から金崙渓が海へ注ぐ景色を眺める。夕陽がとりわけ美しい
- 金崙天主堂(金崙カトリック教会):1960年代にイタリア人の神父が集落を助けて建てたもので、建築にパイワン族の意匠が溶け込んでいる。金崙でもっとも物語を秘めた一角のひとつ
- 金崙駅そばの麺屋:地元のパイワン族のお母さんが営む小さな麺屋。歩いて3分、ビーフン汁/粟(あわ)の餅/焼きイノシシ肉
南廻とあわせて巡る
| 時間帯 | 行程 |
|---|---|
| 09:00 | 台東の市街を出発し、台9線を南へ |
| 10:00 | 太麻里曙光紀念園区(早起きして、ここで日の出を) |
| 11:30 | 多良駅「海の上のホーム」 |
| 12:30 | 金崙で昼食(集落のお母さんの小さな麺屋) |
| 14:00 | 金崙の湯小屋で湯あみ |
| 16:00 | 金崙の海辺を散歩 |
| 17:30 | 金崙の集落の民宿へチェックイン |
| 翌朝 | もう一度湯に浸かり、日の出を眺める |
| 午前 | 南へ大武まで/北へ知本へ戻って森林浴へつなぐ |
つい見落としてしまう細部
- 大武山自然保留区:金崙は大武山自然保留区の縁にあり、空気の質は台湾でも屈指、マイナスイオンの濃度が高い(湯あみの心地がことのほか良いのも、その理由のひとつ)
- パイワン族のとんぼ玉と陶壺:金崙の集落の工房では手づくり体験ができ、年長者への贈り物として、ありきたりの土産よりずっと意味がある
- 金崙の旧海防地:金崙の海辺には、かつて国軍が駐留した旧い砲台があり、訪れる人は少なく、歴史の趣がある
- 毎年5〜7月のパイワン族の祭儀:収穫祭、五年祭、粟(あわ)の祭りの期間は、一部の湯小屋が休業する。族人の時間を尊重してほしい
なぜ金崙を勧めるのか(知本だけではなく)
| 観点 | 知本 | 金崙 |
|---|---|---|
| 開発の度合い | 高い(大型ホテルが多い) | 低い(集落の湯小屋が中心) |
| 観光の雰囲気 | 商業的でにぎやか | 静かで、土地に根ざしている |
| 泉質 | 無色無臭 | ほのかに硫黄、肌触りがはっきりしている |
| 予算 | 中〜高 | 低〜中 |
| 向いている人 | はじめて来る人、年長者、団体 | 二度目に来る人、土地を味わいたい人、観光を避けたい人 |
| 付随する魅力 | ホテルのビュッフェ、SPA、温泉博物館 | 海辺、集落の暮らし、原住民の食材 |
知本は「台東の第一の景色」、金崙は「台東の第二の出会い」 ── 一方は観光客のため、もう一方は台東を分かりはじめた人のためにある。
あとがき
私たちはますます「良い旅」が上手になっている ── 高評価のホテル、強く勧められる名所、SNSで見たのと同じ写真。
けれど金崙はこう教えてくれる:「ランキングに縛られない」という良さも、たしかにあるのだと。
どの家にも湯小屋があり、路地に硫黄の匂いがただよい、駅そばの麺屋のおばさんは、あなたが昨日なにを頼んだかを覚えている ── こうした「日常」の良さこそ、台東がくれるいちばん無駄のない贈り物だ。
次に湯に浸かりたくなったら、急いで知本へ向かわないでほしい。どうか金崙で、一晩を。
あわせて読みたい:
- 対になる知本:なにもしないこともまた、ひとつの到着(知本温泉)
- 多良駅とあわせて:海の上のホーム(多良駅)
- 太麻里の曙光とあわせて:台湾の最初のひとすじの光(太麻里の曙光)
- 南廻のんびり旅:南廻のんびり2日間
- 金崙を含む台東3泊4日コース:台東3泊4日 深掘り版
Image credits
- Hero: 花東縱谷國家風景區管理處 · media.taiwan.net.tw · 政府資料開放授權條款 第 1 版
- Secondary: 花東縱谷國家風景區管理處 · media.taiwan.net.tw · 政府資料開放授權條款 第 1 版
Sources
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